時の流れは早いもので…。
気づけば、天沢と出会ってから…そして七菜香と別れてから、二ヶ月の時が経とうとしていた。
「もうすぐクラス替えだね。
…水瀬さんと一緒のクラスになれたら良いな」
「…また軽々とそういうこと言う。本当に思ってんの?」
「?もちろん思ってるけれど…?」
何を言ってるかわからない、と言った様子で天沢はきょとんと首を傾げた。
この二ヶ月で私たちの距離は、ほんの数ミリだけ近づいたような気がする。
天沢は結局嘘を吐いているのか、よくわからないけれど…
たわいない話を幸せそうに話したり、私のつまらない発言にも微笑んでくれる。
…それだけで今はもう良いかな、と思い始めた。
だって…しばらく時間が経ってから死なないと、小野さんに申しが立たない。
結局あれから一度も会話をしていないし。
余談だが、小野さんのことを私は天沢に喋った。
一人で抱え込んで悩むのも馬鹿みたい、どうせなら天才に意見を聞こう。
そう思ったのだ。
彼は私の話を聞き終わるや否や「仲良くはなれそうにない?」と控えめさを全身に出して尋ねてきた。
彼の慎重さと丁寧さが良くわかる。
私が正直に「一軍と仲良くするとか一生無理」と答えると、天沢は「ゆっくりで良いよ。無理して仲良くしなくても、チャンスが出来たときに本音を伝えれば良い」といつも通り温和な笑みを浮かべて言った。
だから今は焦ってもいないし、光はないけれど暗闇で静かに身体を休めている。
そんな感じだ。
でも時々…ううん、違う。
いつだって七菜香のことは頭から離れない。
彼女の優しい笑み、甘い言葉、頼りになる背中…。
それを思い出すだけで泣きそうになってしまう。
早く、早く…ここから居なくなりたいと、そう願ってしまう。
「水瀬さん」
そんなとき、彼は宝物を丁寧に箱から取り出すかのように優しく私の名前を呼ぶ。
だから、少しだけ…救われるのだ。
天沢に対する苦手意識が…少しずつ少しずつ…薄れていく。
彼は、いつだって真っ直ぐで。
優しくて。
綺麗で。
温かくて。
そして、ほんのり甘い。
「もうすぐ、“春”が来るね」
なんでもないことを、愛おしそうに彼は呟いた。