天沢は私の疑いの眼差しを気にすることなく、立ち上がって部屋の隅に置いてあった自分の鞄を手に取った。
どうやら、やはり一回荷物をここに置いて迎えに来てくれたのが事実らしい。
あんなわかりやすい地図を書いときながら?
どれだけ私なんかを救うために時間をかけるの。
やっぱり理解不能。
「送っていっても…いいのかな」
「…は?」
唐突な意味不明の発言。
私はぽかんと口を開けて天沢を見る。
な、、何言ってんの…?
私を…送ってく?
学園のアイドルの天沢が?
ありえない。
あってはいけないこと。
ていうか、この会ってる状況も相当やばいんだけれど…。
「えっと、、、」
天沢は私が何も答えないので、どうしようと言わんばかりに眉根を下げる。
はぁ…言わないとわかんないってことか。
ていうか、普通わかるでしょ。
誰かに見つかりかねないって。
あんたは街中を歩いていても、一人だけ明らかに違う存在感を放っているんだから。
私は冷静さを取り戻すと、ため息と共に言葉を吐いた。
「はあ…別にそういうの良いから。誰かに見られたら困るし、天沢はのんびりしていけば?」
天沢は一瞬だけ不安そうな、心配そうな表情で私を見たが、これ以上押しかけるのも悪いと思ったのか静かに頷いた。
自分の感情を押し殺すように、深く、悲しげに。
我慢して欲しいわけじゃ…ないのに。
でも、一緒に帰るのは…
無理だ──
「じゃあ、水瀬さん」
「…ん」
天沢は裏口のドアを開いて、私が出やすいようにしてくれる。
私が外へ足を踏み出すと、天沢はドアから顔を出しふわりと優しく手を振って「またね」と囁く。
私は何も返せなくて頭を軽く下げると、そのまま早歩きで帰途に着いた。
これからの未来が、どんどん不明確になっていく。
明るいのか、暗いのか…
光に満ちているのか、深い闇なのか…
真っ青な晴天なのか、土砂降りの雨なのか…
何もわからない、恐怖に包まれた未来。
──君の光を見つけよう。一緒に、探そう。
天沢の繊細で透き通った美声が、頭に響く。
深い深い闇の中にいる私を、淡い光が包み込んでくれたような気がした。
