「水瀬さんは優しいね。
大丈夫だよ、一人の時もそうだし。僕がそうしたいだけだから」
私は早まる鼓動を無視して、ふうん、と素っ
気なく踵を返した。
優しいって…私が会った中で一番優しいあんたに言われてもね。
…って私、何さりげなく天沢のこと褒めてるの。
なんだか自分がとても恥ずかしいことを考えている気がして、慌てて頭を振る。
天沢は私の挙動不審な動きに不思議そうに首を傾げ、どうかした?と尋ねてきた。
「別に。それより時間決めて」
平然を装って言うと、天沢は何事もなかったかのように頷いて話を進めてくれる。
だが…。
「そうだね。午前と午後、どっちが良い?」
決めて、と判断を委ねたのに、天沢は私の都合を尋ねてきた。
どこまでお人好しなんだか、と呆れてしまう。
決めて良いって言う意味で言ったのに。
ここで天沢の好きな時間で良いよ、と言っても良いのだが、それじゃ一向に話が進まない気がしたので即座に答える。
まあ、遠慮なんかいらないか。
「それなら…午前。
いつからこのお店が空いてるか知らないけれど…人通りが少ない方が良いから、早めの時間が良い」
「うん。じゃあ、開店時間の九時で良いかな」
私が頷くと、天沢は手帳を取り出して何かを書き出した。
きっと今週の土曜日の日付に、私との約束を記入したのだろう。
スマホという便利な道具があるにも関わらず、手帳を持ち歩いていて…
シンプルなデザインの手帳は角が縒れて、長い間使われていることがわかった。
几帳面で物を大事にする。
そんな彼の心の表れを感じた。
小学生の時のあの子も、七菜香にも…こんなふとした時に感じる魅力は目立ってなかった気がする。
天沢は、やはり今までの誰とも違う。
演技が徹底しているのか。
それとも…
──元々、偽りの天沢なんていないのか。
