「ねえ、空は好き?」
唐突に降ってきた音色に、私は体のバランスを失った。
思わず空中に投げていた片足を、地面に戻す。
先程まで不自然なほどに落ち着いていた心拍が、激しく暴れ出す。
人生の中で一番重大な決断を邪魔された。
そのはずなのに、不思議と憤怒は湧いてこない。
強いて言うなら、音色のせいだ。
落ち着いた、大雨の中でも耳にすっと響く優しい声。
それは自殺を試みる少女に向けられたとは到底思えないほどに、柔らかかった。
そのまま飛び降りてしまえば良いとわかっていながらも、その声の魅力に惹かれて振り返ってしまう。
もう誰にも関わらないと、決めていたのに。
「空はいつでも僕らを見守ってくれている。
今日みたいに涙を流しているときもあるけれど…僕は決してそれを不快には思わない。
とても綺麗だから」
いつも目にしている私の高校の制服。
色素の薄いサラサラの髪。
光を詰め込んだように力を秘めている透き通った瞳。
ほっそりとした小柄な体型。
誰もが見惚れてしまうほどに整った容姿に、私は言葉を失った。
どうして、こんなところにいるの…?
