天沢が柔和な微笑みを浮かべる。

「ねえ、空は好き?」

あの日と同じ、君の声。

でも、違う。

私も天沢も、少しずつ変わっている。

同じだけど、同じじゃない。



「…うん、大好き」

もう、二度と君を離したりはしない。

「でも、千晴の方が好きだよ」

桜色に染まる君の頬に、そっと手を添える。

優しさを、笑顔を、痛みを、苦しみを、涙を。

どうか私にください。



「千晴も顔赤いよ」

ほんのりと桃色に色づいた頬は、雨に濡れたあの日よりもずっとずっと温かい。

ふっと笑って珍しい天沢の照れ顔をスマホに収めると、流石に頬を膨らまされた。

「人には見せないから!」

「そうじゃなくて。

…目の前に実物がいるのに」



君に恋をする。


これから何度でも。


「て、照れ顔はレアだし…」

「僕をどきどきさせてくれたら、いつでも見られるのに」

天沢が何でもないことのように、こてりと首を傾げて言う。

作為がないのが更に狡い。

でも、嬉しいな。



君と過ごした時間が、私の全てだ。

君の温かさが、微笑みが、傷が、痛みが、今の私を作っている。

君への想いが、私の生きる理由。




「ねえ、千晴。…ずっと一緒に、、」

声が掠れる。

幸せ過ぎて、堪らない。


──あまね、好きだよ。


こんなに幸せでいいのかな。


「いるよ、君のそばに」


涙が溢れる。


「たくさん、笑顔を見せてね」

ふっと微笑んだ君の細い指が、私の頬の雫を掬った。

優しく、柔らかく、甘い手つき。





これからも、何度だって私は泣くだろう。

道に迷って、暗闇でもがいて、困難の壁にぶつかって。

それが人生だ。


未来は明るいのか、そんなの誰にもわからない。


止まない雨だって、明けない夜だって、終わらない冬だって、もしかしたらあるかもしれない。




でも、そんなとき。

君がいてくれるのなら、何だっていい。



雨に濡れていた私たちは、もう一人じゃない。





空に縋る。

手を伸ばし、願う。


どうか、君の傷を癒し、心を休める光になれますように。





私たちを包み込む空は、どこまでも果てしなく続いていた。