「わざわざ送らなくていいのに。たかが数分だよ」
羽虹と颯希くんと一緒の帰り道なのに、天沢はいつも私を送ってくれる。
「今日は晴夏のそばにいようと思って。病院に泊まる許可、もらったから。後で病院に戻るよ」
「そっか」
少しずつ、彼も家族関係を築いていけているらしい。
私も天沢のお陰で最近は両親や妹の陽菜と話す機会もぐんと増えて、良い感じに成長できていると思う。
やはりいくら感謝しても足りない。
そして。
もっと彼の力になりたいと思う、今日この頃。
「それに、少しでも長く水瀬さんと一緒にいたいし」
「…なっ」
思わぬ不意打ち。
天沢が楽しげに髪を揺らすのを、私は真っ赤に染まった頬で見つめた。
── 大丈夫。迷ったら、水瀬さんのところに行くから。
思い出したら色々と止まらなくなって、ぶんぶんと首を振る。
すると、頭上から何かが降り注いできた。
「えっなにっ?冷たっ!」
頬に冷たい水滴が舞い降りる。
それも一粒ではなく、それこそ誰かの涙のように。
「?…雨?」
隣で空を見上げた天沢が、空中に手を伸ばす。
空へと伸ばされた彼の長袖のシャツに、ぽつぽつと雫が落ちた。
「えっ、快晴だけど…?」
眩しい太陽が照りつける空を見て、首を傾げる。
晴れているだけではなく、それこそ雲一つないというのに。
「…綺麗」
「え?」
天沢が嬉々とした表情で、水滴を両手で掬う。
確かに水滴に太陽の光が反射して、キラキラと輝いている様は美しい。
でも、それを見つめる君の横顔の方が、私は…。
「天泣」
「え?」
「天が泣くと書いて天泣って読むんだ。天気雨の別称」
雲がないのに、雨が降ること。
「…そっか」
「ん?」
天沢が楽しげな表情のまま、私を見つめる。
綺麗で、優しくて、甘くて、温かくて。
私とはまるで正反対だ。
でも。
──反対と思うものもさ、意外に関わってるもんだよ。
「…雨と太陽って、こんなに相性がいいものなんだね。ちょっと私たちに似てる」
あの日の君と私。
出会うはずのなかった私たちは、あの場所に導かれた。
でも。
私たちは雨と太陽違って、長い時間を共にすることができた。
もう、離れたりはしない。
彼の手を握る。
その手は、細く、柔らかく、そして温かい。
「でも、私たちは太陽と雨じゃないから。千晴はもう雲になんか、隠れないでね」
握った手に力を入れると、天沢が優しい笑みを浮かべる。
彼はそっと私の手に力を込めた。
