まだ夏の匂いがしっかりと残る風。
外に出た瞬間、生温い空気が身体を纏った。
「ごめんね、水瀬さん」
天沢が申し訳なさそうに俯くのを見て、私はそっとため息を吐いた。
「何回目?良いって言ってるじゃん。疲れてるなら好きなだけ寝て欲しいよ、私は」
口を尖らせてそっぽを向くと、天沢が足を止める。
「…うーん、授業中とか、眠気を感じることはないし、疲れてはないと思うんだけど…。水瀬さんの隣にいると、落ち着くから…」
ぼっと、火が出そうなくらいに顔が赤くなる。
でも、すぐにこんなことで照れていたら心臓が保たないと言い聞かせて、天沢に向き合った。
「…それは、いつも気を張ってるからでしょ?本当は疲れてるんじゃないの?
…まあ、私に心を許してくれてるのなら、素直に嬉しいけど」
ぐっと恥ずかしさを堪えて、口を動かし続ける。
天沢の顔を見たら、確実に羞恥心に負けて言葉を詰まらせてしまうので空へと目を向けた。
「それに、天沢は私に勉強を教えてくれてるんだから…。
天沢の休める場所になれてるのなら、ちょっとでも恩を返せてるのなら、私は嬉しい」
意を決して綴った言葉が、自分の鼓膜に響く。
同じように私の言葉を拾った天沢は、少しだけ目を見開いた。
「…でも!寝不足はダメだから!ちゃんと食べて、寝て、身体を休めること!」
恥ずかしさのあまり口調を強めると、天沢は嬉しそうに口角を上げた。
やっぱり。
どんな宝石よりも眩しくて、どんな花よりも美しくて、どんな雨よりも優しい。
「はい、気をつけます」
何度だって惹かれる。
君は、綺麗だ。
