「うーん、難しい…」
「じゃあ、ヒントです。この問題の活用だから、解き方は大体一緒」
「むむむ…」
カリカリと紙の上にシャーペンを走らせる。
穏やかな日差しが窓辺から刺す、土曜日。
私は今日も天沢の隣にいる。
変わったことがあるといえば、距離感の近さだろうか。
前までは向き合って話をしていたものの、あの日以来ソファに並んで座っている。
天沢曰く『こっちの方が教えやすいから』らしい。
告白までしたのに全く意識されていないのか、彼はこんなに近距離でも表情一つ変えない。
至っていつも通り。
最初は哀しかったが、彼が驚くほど天然で鈍感なのは今始まったことでもない。
最近はこちらも特に気にしないことにしている。
「あ、なるほど…こうか…」
「うん、良い感じだよ」
しばらく天沢自家製のプリントと、葛藤を続ける。
天沢はそれを穏やかに見守ってくれていた。
結局天沢は病院通いも辞めていないので時間は惜しいはずなのに、相変わらずお人好しを発揮している。
最近は私の学力をどこまで上げるつもりなんだってくらいに、色々対策してくれているのが良い証拠だ。
「やった、解けたっ!合って…る…?」
やっとのことで勝利を収め、歓喜の声をあげた。
だが、すぐに口を塞ぐ。
少しの間静止していると、こくりと揺れていた彼の頭が私の肩に落ち着いた。
緩く閉じられた瞼から覗く、透き通った長い睫毛。
淡い色素の髪が、さらりと私の首元に触れる。
息を呑むほどの美しさ。
意識されていないことは嫌というほどわかったが、心は許してもらっているらしい。
色々なことが、この二ヶ月ほどで変わった。
季節はだんだんと秋に近づきつつあり、天沢の新しい表情も何度か垣間見た。
でも、やっぱり彼は努力家で真面目で一生懸命だ。