「誕生日、おめでと」

涙が収まるのと同時に冷静さを取り戻したので、祝いの言葉を贈る。

遅くなってしまったと思ったのだが、彼はまさに今気づいたと言った声色で呟いた。

「そっか、今日…」

まるで自分のことに興味がないな、とため息を吐きそうになる。

だが、そんな余裕さえないほどに追い詰められていたということだ。

少しでも話を方向転換させたくて、咄嗟に口走る。

「七夕に生まれるってロマンチックだね」

「…雨が多いし、この時期に生まれたのは正解だったかも」

七夕に降り注ぐ雨。

どこかで聴いたことがある。

催涙雨。

二人が別れを惜しむときや、会えずに悲しむときに流す涙。



織姫と彦星は無事、会えたのだろうか。


「織姫と彦星って七夕の日にしか会えないって言うじゃん」

「?うん、そうだね」


唐突な発言に、彼が少しだけ体を離して微かに首を傾げる。


…私は、ちゃんと大切な人に会えたよ。


「私だったら、絶対我慢できない。

川の向こうに天沢がいるとしたら、泳いででも会いに行っちゃう」


きっと、今日のように。

君に全てを伝えるために。



天沢は不意を突かれたように、私の背中から手を離して心臓のあたりのシャツをぐっと握る。



酷く寂しいのに。

何故か見ていて幸せな気持ちになる、そんな表情で。

もしかしたら。

君の心は、少しだけ、ほんの少しだけ、幸せに色づけられているのかもしれない。

「…ダメだよ。今度は僕だって何をしてでも水瀬さんに会いにいく。お互い迎えに行ったら、すれ違ってしまうからね」


彼は私の涙の跡を、手で優しく拭った。

でも、すぐに涙が溢れ出す。


会いに来て、くれるのか。

真面目な君が、掟を破ってまで会いたいと思ってくれるのか。