もしも願いが叶うのならば、私は君の光になりたい


「天沢だって人間なんだよ。完璧な王子様だって人間なの。

私が人生に疲れたから全てを忘れて楽しいことしたいって言ったら、天沢は止める?許すでしょ、ていうか助けてくれるでしょ?同じだよ。天沢にだって、好きに生きる権利がある」

「…好きに、生きる」

もう一度、彼は微かに俯いた。

でも、大丈夫。

私の言葉は届いている。

その証拠に、彼はその言葉を唇に乗せてくれているから。

「…前を向かなくても良いよ。後ろには、私も羽虹も颯希くんもいるから。少しだけでもいい、立ち止まってみない?」

きっと、追いついてみせるから。

もう君は努力しなくたって、良いんだよ。

休んで、良いんだよ。


手を握る。

あの冬の凍てつく空の下、君がそうしてくれたから。


「…水瀬さん」

「はい」

天沢が、私の名前を呼ぶ。

そんな当たり前のことが、酷く嬉しい。



これから先の未来、何度だって君の名前を呼ぶだろう。


君が道に迷ったとき。

君が暗闇に囚われたとき。

君が悲哀に溺れたとき。


何度でも、美しく輝く名前を君に届けてみせるから。


「ありがとう…」

君が笑う。

君が好きな空や、花。そして雨。

皮肉なことに、そのどれよりも、美しく綺麗で魅力的だ。

「…今は笑わなくて良いよ、」

でも、苦しいから。

君は傷だらけで、痛くて哀しくて怖くて仕方がないだろうから。

笑わなくて、良いんだよ。

「…うん」

天沢は、頷いた。

緊張を緩ませた、穏やかな表情で。

笑顔を消した、というよりも溶けた、という表現がしっくりと来た。


何故か湧き上がる涙を、ぐっと堪える。

代わりに、もう一方の手も彼に重ねた。

「もう一度…触れてもいい?」

もう、触れているけれど。

きっと君なら、この意味がわかるから。

「…はい」

天沢は怪訝な様子一つも見せずに、ふわりと頷いた。

一雫の水滴が、彼の頬を伝う。

雨粒が降り注ぐ中、それは一層輝いて見えた。



指先が、彼の心に触れた気がする。

優しく脆く、美しいシャボン玉のような心に。



淡い微笑みはきっと本物だと思うから、今度は何も言わなかった。


代わりに、もう一度君の細い背中に腕を回す。

二人で、ぺたりと地面に足を下ろした。