「…一緒にいてくれる?」
しばしの沈黙の後、不安げに瞳を揺らしながら天沢はぽつりと呟いた。
君からの頼み事は、これで二回目だ。
少しずつ、君の心に近づいている。
あと、少し。
脆い君を覆う壁が、崩れるまで。
「そんなの当たり前じゃん。天沢が選んだ道が、たとえどっちでもね」
君に全てを委ねよう。
この心も、この感情も、この命さえも。
だから、君の心に触れさせてください。
「…もう、十分だ。全部、全部。幸せ、過ぎる。
それなのに、そのはずなのに、なんでだろう。…もっと、一緒にいたいよ」
「…うん」
天沢の表情が崩れ落ちそうなほどに、哀しく歪む。
ぐっと唇を噛むと、視界がじわりと滲んだ。
私だって、もう十分だ。
君と、出会えた。
幸せを知った。
一緒にいたいと言われた。
でも、私はないものねだりだから。
未来を、願っても良いですか?
「…僕は、どうしたいのかな…」
天沢が視線を迷わせて、静かに俯く。
朧げな瞳が、水を滴らせる前髪に隠れた。
でも、それでも、輝きを失ってはいない。
君は光、そのものだ。
眩しいけれど。
哀しげな、寂しげな、切なげな、君を。
君だけを、私は見ていよう。
「…天国へはさ、いつだって逝けるよ。でも、逝ってしまったら戻れないから…。一緒に、生きてみない?全部を捨てて」
「…全部を、捨てる?」
「そう。真面目な天沢に、不真面目な私からアドバイスです」
わざと笑みを浮かべると、天沢の視線が戻ってくる。
天沢に届くのなら、君を救えるのなら、なんだってあげよう。
笑みも、涙も、心も、全部。
そう、誓おう。
「全て、置いていくの。何も考えずに、したいことだけする時間があっても良いでしょ?」
「…でも、僕は…、」
天沢の声が、雨に溶けていく。
自信なさげに揺らぐ君は、夜の空に透ける朧月のようだ。
でもいつだって君は、光であることに変わりはない。
雲があるか、ないかだけ。
私を地上へと引き上げた鮮烈な光。
その事実だけは、君がどんな表情を浮かべようが変わることはない。
