「…天沢が初めてくれた言葉。遅くなったけれど、ちゃんと答えようと思う。聞いてて」
手を引いたときに見えた彼の表情は、恐ろしいほどに無だった。
全てに疲れて、もう驚きも喜びも痛みも感じることのできない心。
私の言葉で、動かすことができるだろうか。
…いや。
動かしてみせる。
彼が教えてくれた、感じさせてくれた、全てを使って。
「…天沢と出会う前の私は空をじっくり見つめることなんてなくて、好きとか嫌いとか考えたこともなかった。
空はただ、頭上に広がるもの。
どうでもいい。
空が大好きな天沢には悪いけれど、あの時の私の本音はそれだった」
君がしてくれたように、今度は。
冷え切った体も、傷ついた心も、痛みだらけの過去も。
私の言葉で癒してあげたい。
「でもね、私、変わったよ。天沢に触れて、私は変わった」
何もできずに、失敗してばかりの日々も。
転んで、傷だらけになってばかりの人生も。
泣いて目を腫らしてばかりの毎日だって。
君と、歩めるのなら。
日々も、人生も、他人も、自分も。
全部、愛せるから。
「天沢の隣で見る空は、あんなにも綺麗だった」
快晴も、曇天も、雨空も、荒天も、星空も。
君と見る空なら、なんだって良いよ。
「私は天沢の隣で見る空が、好き。大好き」
雨が、温かい。
君の体温を奪った張本人だけど。
君の大好きな雨だから。
「…もしも願いが叶うのならば」
星空は願いを叶えてくれるだろうか。
答えはわからない。
わからない、けれど。
今だけは、信じても良いかな?
「私は天沢の傷を癒したい」
傷だらけの君を、優しく包んであげたい。
暗闇で独り凍える君を、温めてあげたい。
真っ暗な闇で迷っている君を、導いてあげたい。
太陽は眩しいけれど、光を知らない。
体温が高い人が、温かさを感じないように。
君は、その優しさを、光を、自分に向けないから。
君は他人の傷を癒すばかりだから。
それじゃ、君は苦しいばかりだ。
だから。
太陽より、もっと眩しい光に。
私はなりたい。
「私は君の光のなりたい」
