空を見上げはしなかった。


根拠なんてないけれど。

必ず君はそこにいるという確信があったから。


転びそうになりながら、階段を上る。

足元でギシギシと階段が泣いているけれど、容赦なく踏みつけた。




残りの階段が数段になったとき。

私は無意識にスピードを緩めた。

上がった息が、焼けてしまいそうな肺が、だんだんと落ち着いてくる。



静か、だった。




“まるで”




誰もいないみたいに。






「──あま、さわ…」



喉から漏れた声は、雨に掻き消される。






届かない。




近づいてはいけない、雰囲気を感じた。


こんなに一生懸命走ってきて、今までの人生で一番焦っていたというのに。


彼は目の前にいる。

ちゃんと、いるけど。



もうこの世界にはいないように感じた。



踏み込んじゃいけない、領域。