しばらく道端に蹲っていると、通行人の足音が聞こえてきた。

──嫌だ、誰の姿も見たくない。

おぼつかない足取りで立ち上がって、そのまま帰途にはつかずにがむしゃらに走る。


どんな場所でも良いから、一人になりたい。


走った先に視界に入ったのは、廃ビルだった。

大雨で視界がはっきりしない中、今にも崩れそうな建物は不気味以外の何でもない。


──貴方も誰からも必要とされないんだね。



仲間意識が芽生えた瞬間、私は正しい判断力を失ってそのビルに近づいていった。

さっきまで重かった足取りも嘘のように軽くなり、一瞬で目的地に到着する。

黄色と黒のロープは、ここが危険であることをはっきりと主張していた。


危険?危ないってこと?

くだらない。

そんなの、知らない。

古びたビルよりも、大雨よりも、人が一番恐ろしい。


誰もが本当はわかっているんでしょう?

見て見ぬふりをしているだけで。



私は立ち入り禁止の札も無視して、剥き出しになっている階段をゆっくりと登り出した。

手摺まで真っ黒に変色した古びた階段が、ギシギシと音を立てて泣いている。


それでも、私は足を止めなかった。

一つ一つ噛み締めるように、段差に足を重ねていく。


これで全部最後にしよう。