「ばかばかばかっ!!」
全速力で走った。
傘は空中に舞い、イヤホンは雨に紛れる。
全てが邪魔だった。
いち早く、彼の元へ。
「離すわけ、ないじゃんっ!」
──僕のこと、忘れて。さよなら。
「忘れられるわけ、ないじゃないっっ!!」
雨が、風が、頬を突き刺していく。
でも、どんなことより。
彼の言葉が痛い。
忘れる?
そんなの、できるわけない。
なかったことになんか、もうできないんだよ!
──そんな君を、綺麗だと思ったんだ。
君はいつだって、優しくて甘くて温かくて。
春の陽だまりのように、穏やかだった。
でも。
共に時間を重ねるたびに、君の弱さを知った。
──…僕は、この顔だけには…僕にだけは、なりたくなかった…っ!
君の泣きそうな声。
初めて、聴いた。
虚空へと消える声は、まるで露のよう。
酷く脆くて、切なくて、儚かった。
──僕の父さんは自殺だった。
君の無機質な声が、今でも耳に残っている。
虚な瞳は、私を映してはいなかった。
そして。
──…待っててくれる?
思い出すだけで涙が溢れそうなくらいに、嬉しかった言葉。
君はいつだって、全てを独りで背負っていた。
優しくて、努力家で、一生懸命で、温かい。
でも、それと同じくらいに。
君は、弱くて、哀しくて、脆くて、危うい。
君の笑顔に救われた。
君の優しさを知った。
君の痛みに触れた。
君と過ごした時間が、私を変えた。
君がどん底にいた私を助けてくれた。
君といる時間は私の心の拠り所だった。
