『僕はお義父さんを恨んでなんかない。僕らを養ってくれたのは彼だし、優しい人だった。
だから、感謝しているから、何をしてでも彼の支えになりたいと思った。少しでも傷が癒えるのなら、なんでも良かった。嘘じゃない。僕は後悔なんて、していないから。
でも、ダメだなぁ…。
晴夏の自慢の兄になりたくて、お義父さんとお母さん、そして…お父さんの自慢の息子になりたくて、生きてきたのに。全部、間違ってた、のかな』
「そんなわけないじゃない…っ!」
天沢が今にも消えてしまいそうな声で、自分を非難するのが辛い。
私はちっぽけな存在だけれど。
私がここにいるのは、彼がそんな生き方をしてきたからだ。
彼に惹かれた気持ち。
彼と共にした幸せな時間。
彼と交わした言葉。
全部、無駄なんて。
そんな風に、言わないでよ。
『…僕は晴夏を、お義父さんを、苦しめてしまう。でも、もう大丈夫だね』
「天沢、…っ!」
やめて…。
行かないで…っ、
私を置いていかないでよっ!
『水瀬さん、話を聴いてくれて、ありがとう。ごめん…なさい。…またね』
もう、会う気はないくせに。
彼は、まるで明日があるみたいにそう言った。
最後まで、彼は私に助けを求めてはくれなかった。
独りで全部背負って、彼は飛ぶのか。
心に穴が空いていく。
君が埋めてくれたのに。
空っぽの心に戻ってしまう。
