もしも願いが叶うのならば、私は君の光になりたい

『僕は雨が好きだよ。君の名前も、やっぱり好き。

父さんが自殺してから、雨が降るたびに僕は部屋に籠っていた。父さんは大雨の中で命を絶ったから。

でもある日、すごく嫌なことがあったときに雨に濡れてみたんだ。父さんの気持ちがわかるかなって。

その時から、雨が好きになった。

雨は優しい。誰かの涙を隠して、体を包み込んでくれる。空の涙は、綺麗だった。父さんが雨の中、命を捨てた理由がよくわかった』

「…好き、とか言わないでよ、馬鹿」

しかもそんなに濃淡のない声で。

それでも聞き惚れる声とか、ふざけてる。

狡い、どこまでも狡いよ。


『だから…入学式で君の名前を見つけたとき、心を惹かれた。とても綺麗な名前だって思った。…君自身にも、僕とは正反対の芯の強い孤高さを感じて、こっそり尊敬してた』

「…なに、それっ…」

唐突に知らされた事実。

私が眩しすぎる天沢を避け続けていた間、彼は私を目で追っていたというのか。

そんなの、そんなのってないよ。


どこまで、私を幸せな気持ちにしたら気が済むの…?


『君があの日、あの場所に辿り着いたこと。僕が君を見つけたこと。それは僕にとって、人生最大の奇跡だった。

ずっとずっと…後悔してた。だけど、君が後悔を軽くしてくれた。ありがとう。これ以上ないくらいに、君に感謝してる』

彼の声が、どんどん悲しみに溺れていく。


声が出ない。

私が彼を助けた?

後悔を軽くした?


違う。

助かったのは私の命だ。

彼の父親が自殺したのも彼のせいじゃない。


全部が、どこかで間違っている。


君は、自分を一切見ていない。


『…ずっと、ずっと、ずっと。

認められたかった。誰かを救いたかった。恨まれたく、なかった。

勉強はもともと好きな方じゃないし、運動だって、全部。好きなことなんて、ほとんどなかった。

でも、全部無理矢理好きになった。なんでもできるように見える、人間を目指した。そうしたら、きっとお義父さんも僕を見てくれると思ったから』

ぐっと唇を噛む。


お義父さんの母親を殺した殺人鬼とは、違うと、きっと彼はそれだけをわかってもらうために努力してきたのだ。



それなのに。

神様は君に救いの手を差し伸べてはくれなかった。

世界は残酷だ。残酷すぎる。




でも、負けるもんか。