小さな声だった。
偏差値七十越えの高校で首席合格を果たした上に、万年一位。
そんな、誰からも認められた人間とは似ても似つかないほどに、力のない音色だった。
心を痛めながらも、固唾を飲んで言葉を待つ。
『聴こえていますか、水瀬さん』
久しぶりに呼ばれた名前。
綺麗で、透き通ってて、優しくて。
まるで自分のものじゃないみたい。
いつもは彼が目の前にいた。
でも、今は。
姿さえ見えない。
それなのに、耳元で聞いているから今までで一番近く感じてしまう。
どれだけ小さくても、悲しくても。
心地よい、優しい音色。
「…聴こえてるよ…っ、ちゃんと…」
大丈夫。
変わらない。
どんなに憔悴しきっていたとしても、彼があれほどの優しさを置き忘れることはできない。
天沢は、ちゃんと天沢だ。
『君が初めて僕の名前を呼んでくれた日も、こんな日だったね』
彼はどこを見ているのだろう。
全てに疲れてしまった虚な心で、何を感じているのだろう。
彼はどんな気持ちで、私の名前を呼んでいるのだろう。
