『それで、起きたら…晴夏くんは、もう。
千晴くん、自分のせいだって思うに決まってるのに。だってそうでしょ、千晴くん、優しくて、そういう人じゃん…それなのに…それなのに、ね、お義父さんがね…、っ…
“晴夏は死ぬところだったんだ、また人を殺す気か。お前は目立ってばかりで晴夏に肩身狭い思いにさせていたくせに、遂には殺すのか”
…って言ったって…』
「…何言って…っ!」
『聞いたらね、千晴くんのお義父さん、目の前で、お母さん…こ、殺されてるって…。それを、千晴くんに重ねてるんじゃないかって…、とても端麗な顔立ちで優しそうな人だった、らしいから…』
頭がおかしくなりそうだった。
意味がわからない。
意味がわからない。
わかりたくない。
ぐっと握られた手に、爪が食い込んで痛い。
でもこんなの、天沢が感じた痛みに比べれば蚊に刺されたようなものだ。
『優しい人って、そう思ってた…のに。千晴くんのお義父さん、本当に良い人だった。ずっと、そう思ってた。
でもね、お酒を飲むと人が変わっちゃうって…。
人に強く当たって、怒鳴り散らかす。それに耐えかねて、千晴くんのお母さんは病院の近くにアパートを借りて住んでるって言ってた。
千晴くんも一人で住んでるらしいの。だから、お母さんも家族らしいことは何一つしてない、って言ってて』
心が冷えていく。
冷たく、冷たく、なっていく。
彼はいつも長袖だった。
傷を指摘した時、珍しく慌てていた。
痛みに顔を歪めさえもしなかった。
『…さっき、似てるって言ったでしょ?千晴くんと、お義父さんの母親の命を奪った人。
…だから。お酒を飲んだり、パニックになったりすると千晴くん…憎しみ全部、全部…ぶつけられて…』
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
──…僕は、この顔だけには…僕にだけは、なりたくなかった…っ!
今になって、あの言葉の意味が、込められた思いの重みが、痛いほどにわかる。
彼は驚くほどに自尊感情が低く、尋常じゃないほどに人想いだった。
全部、全部、見えていたことなのに。
どうして、気づけなかった?
そんなの、わかりきっていることじゃないか。
見ようと、しなかったから。
私は彼に相談してばかりで。
どんな気持ちで、彼は私の言葉を聞いていたのだろう。
家族のこと。友好関係のこと。
彼からしたら、ずっとずっと羨ましい境遇を。
私は馬鹿だ。
千晴くん、自分のせいだって思うに決まってるのに。だってそうでしょ、千晴くん、優しくて、そういう人じゃん…それなのに…それなのに、ね、お義父さんがね…、っ…
“晴夏は死ぬところだったんだ、また人を殺す気か。お前は目立ってばかりで晴夏に肩身狭い思いにさせていたくせに、遂には殺すのか”
…って言ったって…』
「…何言って…っ!」
『聞いたらね、千晴くんのお義父さん、目の前で、お母さん…こ、殺されてるって…。それを、千晴くんに重ねてるんじゃないかって…、とても端麗な顔立ちで優しそうな人だった、らしいから…』
頭がおかしくなりそうだった。
意味がわからない。
意味がわからない。
わかりたくない。
ぐっと握られた手に、爪が食い込んで痛い。
でもこんなの、天沢が感じた痛みに比べれば蚊に刺されたようなものだ。
『優しい人って、そう思ってた…のに。千晴くんのお義父さん、本当に良い人だった。ずっと、そう思ってた。
でもね、お酒を飲むと人が変わっちゃうって…。
人に強く当たって、怒鳴り散らかす。それに耐えかねて、千晴くんのお母さんは病院の近くにアパートを借りて住んでるって言ってた。
千晴くんも一人で住んでるらしいの。だから、お母さんも家族らしいことは何一つしてない、って言ってて』
心が冷えていく。
冷たく、冷たく、なっていく。
彼はいつも長袖だった。
傷を指摘した時、珍しく慌てていた。
痛みに顔を歪めさえもしなかった。
『…さっき、似てるって言ったでしょ?千晴くんと、お義父さんの母親の命を奪った人。
…だから。お酒を飲んだり、パニックになったりすると千晴くん…憎しみ全部、全部…ぶつけられて…』
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
──…僕は、この顔だけには…僕にだけは、なりたくなかった…っ!
今になって、あの言葉の意味が、込められた思いの重みが、痛いほどにわかる。
彼は驚くほどに自尊感情が低く、尋常じゃないほどに人想いだった。
全部、全部、見えていたことなのに。
どうして、気づけなかった?
そんなの、わかりきっていることじゃないか。
見ようと、しなかったから。
私は彼に相談してばかりで。
どんな気持ちで、彼は私の言葉を聞いていたのだろう。
家族のこと。友好関係のこと。
彼からしたら、ずっとずっと羨ましい境遇を。
私は馬鹿だ。
