来た道をひたすらなぞって帰っていく。
電車を降りてしばらくして、スマホで安東くんから送信されてきた地図を見ようと液晶画面をスライドした。
すると、羽虹と安東くんからそれぞれ二回ずつ連絡が入っているのに気付き、驚く。
どちらにかけなおせば良いのか迷ったものの、一番古い着信が羽虹からだったので彼女に電話した。
すぐにプルルという電子音は、虚空に消えた。
「もしもし、羽虹?」
『あ、雨音…!颯希、雨音がっ!』
明らかに動揺している羽虹に、心臓が嫌な音を立てる。
天沢には会えてない?
それとも…もう──?
『そんな声出したら、雨音が勘違いするだろ。そうと決まったわけじゃ、ないし。許せねーけど…』
『そ、そうだよね。ごめん雨音。その、千晴くん、病院にいなくて。病院に行く前に家にも行ったんだけど、いなかったから。どこにいるか、わからないの』
いない、と頭の中で痛い事実を反芻する。
天沢はどこへ行ったんだろう。
ねえ、どこにいるの?
必ず駆けつけるから、お願い。
返事をしてよ──
「天沢の弟はどんな様子なの?天沢が休んだ原因ってやっぱり…」
『…っ…それ、は…』
羽虹の声が怯えているように酷く震える。
嫌な予感ばかりして、だんだんと心が萎えてきた。
でも、何を聴いても受け止めて、足を進めないといけない。
その覚悟くらい、もうしているから。
『羽虹、貸して。ここ一週間千晴が休んでたのは、弟の体調がかなり悪化したから。それが原因。でも今日病室に来たら、晴夏は静かに眠っていた』
「…うん」
『…命は取り留めたし、次期に意識も戻るらしいから…もう大丈夫。大丈夫…なんだけど』
最悪の事態を予想していたので、その瞬間肩から力が抜けた。
ふわりと傘が舞い降りる。
もう雨は相当強くなっていて、全身、打ち付けられているような感覚がした。
「…それなのに、天沢はいないの?」
『…最悪だ。晴夏のベッドは血塗れだった。あいつ、自分で手首を切ってた』
ひゅっと息を呑むこともできなかった。
手から力が抜けて、スマホが床に落ちた。
勢いよく振る雨に全身が濡れていく。
何で、何で、何で。
どうして、どうしてよ!?
だって、あんなに、あんなに、、天沢は優しくて綺麗で柔らかくて温かくて。
努力家で、真面目で、いつも一生懸命で。
どんなときも、人のことばかり考えてる。
そんな、誰よりも本質的な意味で美しい彼を、どうしてこうも神様は傷つけるのだろう。
許せないっ、許せるわけない!
…でも、私に何が出来るの?
私は、天沢の弟の代わりにはなれない。
神様を、運命を、恨むことくらいしか──
──水瀬さんは優しいね
