「…あ、先生。えっと、天沢…くんに渡すプリントとかありますか?」
そういえば一週間も学校に来ていないのだから、彼は何かと不安なんじゃないだろうか。
真面目だし、心配性だし、自尊感情が低い彼のことだから。
…それを考える余裕すらない、かもしれないけれど。
ひとまず、プリントを渡すくらいはさせて欲しい。
昨日誕生日を知ったばかりで、プレゼントだって用意できてないし。
「え…会うのか?千晴と?」
「え、まあ…。
…あ!いや、えっと、違っ」
頭が何かでいっぱいのときに人と話すと碌なことがない。
天沢との関係なんて、なんと説明すれば良いのだろうか。
なんとかこの場から逃げる口実を探す。
「あ、雨!先生、部活もありますし、濡れたら風邪ひきますよ!私は急ぐので!」
意味のわからない文脈だという自覚はあるが、緊急事態だ。
この際、何でも良いから早く逃げよう。
「待て水瀬」
礼儀なんて知らない!と言った態度で駆け出そうと思ったのだが、真面目な表情で見つめられる。
虎に睨まれた鼠のような気分になり、足を動かす気力も失せた。
「一階の小会議室で待っててくれ。すぐ行く」
「早く帰った方が良いって言ったの先生じゃないですか…それに私、大事な用事があるので!」
真面目なのは天沢だけで十分だ。
今は彼のことだけ考えたいし、ここで時間を割くわけにはいかない。
必死の思いで抵抗したのだが、次の一言で私の足は校舎に向かった。
「千晴から伝言だ」
