「本当にありがとう、小野さん。部活中にごめんね。頑張ってね」
「うん、お互い頑張ろ!あ、今度お昼一緒に食べようね!」
私とは似つかない明るい彼女だけれど、嫌な感じはしない。
私は頷き、またね、と小野さんに手を振った。
小野さんも大きく手を振ろうと右手を上げたけれど、何かを思い出したように動きを止める。
「あ、そうだ…、雨降ってるから風邪ひかないようにね」
「ん、ありがとう」
さりげない気遣いが心に染みる。
優しい人ばかりだ。
周囲に関わらずに生きてきたから、知らなかっただけで。
世界は少なくとも…私よりは、ずっとずっと優しい。
「…水瀬?」
「…津谷先生、こんにちは」
小野さんと別れてほんの数秒後、担任でありバド部の顧問である津谷先生に会ってしまった。
雨がぽつぽつ降っているし、小野さんにも言われたので、そろそろ傘をさそうかと思っていたのだけれど、先生の前となれば傘を開くわけにもいかない。
そのため、傘を開こうと添えていた右手をさりげなく下ろして、先生に向き合った。
「休日にわざわざ学校か?帰宅部だったよな」
「はい。ちょっと…友達に伝えたいことがあって」
小野さんの名前を出していいのか分からなかったため、友達と呼ばせてもらう。
変にむず痒い感じがしたが、友達と言っても間違いじゃないはず、だ。
「そうか、だが…これからかなり急な大雨になるらしいからな。部活もこれから即解散だ。大丈夫か?家遠い方だっただろう」
「大雨…ですか?」
「ああ、本当に急だな。今日は夜まで降り続けるらしい。今のうちに帰った方が良いだろう」
昨日の夜、明日…いや、今日に備えて早く寝た。
使命感のようなもののおかげで一瞬で眠れたのは助かったと思う。
そのはず、なんだけど。
ここ最近眠れていなかったせいか、結局寝坊してしまい、気づいたらもうすぐ九時で焦ったものだ。
そんなこんなで、天気予報など目にしてもいない。
この傘だって、祖母に持って行くように言われただけで雨が降ることなんて、一切知らなかった。
だが、『急に』ということは天気予報も外れたのだろう。
安東や羽虹、天沢は大丈夫だろうか…。
