「…雨音、ごめんなさい。謝るのは私の方よ。ごめんなさい、ごめんなさい、雨音…」
耳元に謝罪の言葉が並べられたそのとき、私は息を呑んだ。
どうして、どうして、どうして?
どうして、そんなに悲痛な声で謝るの…?
「ずっと…、ずっと後悔してたの。雨音は小さい頃から一人で何でもこなしちゃう子で…本当に手がかからなかった。だから、いつも…泣いてばかりの陽菜にかまいっぱなしで…。
陽菜、雨音が中学に入ってからも明るく振る舞ってたけれど、実はあんまり友達と上手くいってなくてね、それで部活も辞めちゃって…あの子のことだから詳しくは言えないし、所詮言い訳なんだけど…私もお父さんも雨音のこと、愛してるのよ。ちゃんと…」
困惑しながらも、一語一句聞き逃さないように涙声に耳を澄ませた。
何も見えていなかった。
心からそう思った。
「大学もね、こっちに帰ってきて欲しいなって思って言っただけなの。だから雨音の好きにして良いのよ。一度きりの人生でしょう、これからは私も連絡するから。雨音の邪魔にならない程度に、ね?」
「お母さん…」
涙が出そうなのを、必死に堪える。
私は愛されていたのか。
嬉しい。
同時に、それを今まで無碍にしてきた自分が許せない。
「…雨音、これから時間取れる?お父さんちょっと外に出ててね、でもすごく心配していたから。話してあげて欲しいの」
今ならきっと…お父さんとも話せる。
でも。
「ごめん」
お父さんとは、明日でも明後日でも話せる。
私は変われたから、大丈夫。
もう、私は家族を避けたりしない。
でも、天沢を助けるには今日しかないから。
「これから大切な用事があるの。私を暗闇から助けてくれた人に、会いに行く。彼がしてくれたように、今度は私が助けてあげたい」
迷いはなかった。
安東くんも、羽虹も、君を想っている。
私も、必ず助けに行くよ。
「そう。…頑張ってね、雨音。大丈夫よ。あなたなら」
「…うん」
心が灯っていく。
これ以上ないくらいに温かくて、優しい光。
天沢、ありがとう。
待ってて。
君が変えてくれた新しい私で、会いに行くから。
君が幸せをくれた。
君が優しさを教えてくれた。
君が暗闇に光を注いだ。
君が私の世界を変えたんだ。
だから…
私は、もう。
「あと少ししたら雨が降るから、風邪、ひかないようにね。雨音」
自分を嫌いだとは思わない。
天沢が褒めてくれた名前。
そして、君と会った日に君の頬から滴っていた雫。
雨が、好きだから。
「お母さん。お父さんにも伝えてください。
──素敵な名前をありがとう
行ってきます」
