でも。
決して安東くんの発言全てに、納得がいっている訳ではない。
「…人生の選択肢にはさ、答えなんてないと思うの。辞退したことは間違いじゃないけれど、正解でもない」
たとえどちらの道に進んだって、何かに没頭すれば、必ず何かを得ることができる。
真剣に向き合えば、選択を正しかったと思える。
「天沢は努力家で秀才だけど。試合に優勝できたのは、彼一人の力じゃない。彼とパートナーを組んだ安東くんは、それ相応の努力をしたんでしょ?」
静かに瞼を閉じる。
試合で優勝して喜ぶ安東くんと、頬を綻ばせる天沢。
まるでその場にいたみたいに、はっきりと情景が浮かぶ。
そして、先生に試合を辞退する報告をした、その瞬間も。
「もう一度聴くよ。安東くんはそれで良かったの?」
今、二人は一緒にいることもなくなった。
その意味が、わかるから。
きっと安東くんは自分の選択を悔いていると、私は思う。
「…千晴はごめんって言って。それっきり、気まずくなった。多分、千晴…部活の奴らから話、聞いたのかもしれない。だから、俺が傷つかないように辞退することを了承してくれたんだと思う。推測に過ぎないけど。
そして…これ以上、俺と千晴が比較されることのないように、離れていったのかもしれないな、なんて」
天沢は幼馴染二人を、心から愛していた。
大切で、そばにいたくて、隣が大好きで…。
でも、二人から離れた。
傷つけないために。
守るために。
自分の幸せを捨ててまで。
「そう思うたびに、胸が張り裂けそうなくらいに…辛くなる。千晴はもっと苦しいって、わかってるけど。
千晴のそばにいたかった。三人で、いつまでも仲良くいるって、そう…言ったのに。無理だった。こんなんで良いわけない。後悔だらけだ」
頭を抱える安東くんからは、濃い後悔の匂いがした。
悔やんで、どうしようもなくて、それでも諦められなくて。
そんな、物語の主人公みたいに。
「…天沢は良い友達を持ったね。安東くん。後悔は消せるんだよ。そのために、ここに来たんでしょ?」
勢いよく息を吸う。
大丈夫。
誰だって誰かに希望を、勇気を与えられるから。
「私は、天沢を助けたい」
もう、迷いはなかった。
私は安東くんや羽虹に比べて、全然彼のことを知らない。
それが、ショックではあった。
でも、今はそんなことどうでも良い。
これから、知っていけば良いだけから。
私の願いは天沢の隣にいることだから。
これから彼の苦しみを、ゆっくり、少しずつ知っていこう。
精一杯の感謝と、私の心に宿ったこの想いを伝えるために。
私はもう一度、天沢に会いたい。
