「嫌がらせとか、ありえない。全くそんなつもりなかった。
でも…。“大会で優勝できたのは、千晴のおかげだもんな。良かったな、幼馴染に栄光への道へ連れて行ってもらえて”って言われて…。否定できなかった。
俺の実力じゃ無理だったから。誰の目から見ても、千晴は一際目立って見えたから。
俺は、ただ幼馴染って立場で優勝を勝ち取った卑怯な奴なのかもってそう…思った」
「…それで辞退しちゃったの?」
わなわなと手が震えた。怒りか、悔しさか、感情の色はよくわからない。
ただ…許せなかった。
安東くんは萎れてしまった花みたいに、肩から力を抜いて俯く。
「…はっきりはわからない。なんで辞退したのか。俺なりに努力したし、千晴とバドミントンしてる時間はこれ以上ないくらいに楽しかった。
…でも。千晴に無理させると思って。弟の体調も全然良くなる気配なくて、全く気持ちも体力も余裕のない状態の千晴に、これ以上…これ以上は無理だって思った」
「…でも、安東くんはそれで良かったの?」
「…今となっては全然わからない。どっちを選んでも、きっと後悔は残るから。
でも俺が辞退を選んだのは、何より…もしものことがあったとき、部活のせいで千晴が大切な人との時間を削っていたなら、きっと千晴は自分を許せない。
そして…部活だって。過ごした時間を思い出すたびに、後悔の味がするなんて…。それはどうしても嫌だったんだ」
安東くんの言っていることは、痛いほどわかる。
天沢は試合に出場していれば、安東くんのために無理してでも行っただろう。
でも、もしその時弟の体調が悪化したら?
天沢は必ず自分を責め続ける。
父親を亡くしたときに彼の苦しみに気づけなかった自分自身を、今でも許せない天沢なら。
