「…県大会が終わった後、千晴の弟の容態が悪化して。千晴、殆ど部活に来れなくなったんだ。それを、部活の奴らは非難、して。これから学校の代表として出るのに、何してるんだって。やる気がないならやめろって」
安東くんが焦燥感と怒りと、どうにもならない後悔に顔を歪める。
私は許せなかった。
今すぐその人の首元を掴んで、頬を思いっきり叩いてやりたいと思った。
何も、知らずに。
精一杯の努力をして、家族を他人を思うばかりの日々を送っている彼を、どうして責められるのだろう。
「…流石に許せなくて。千晴には千晴の事情があって、それを何も知らずに責めるなって言ったんだ。それに、努力して大会への切符を勝ち取ったのも千晴だから」
「私も、そう思う。天沢だけじゃなくてもちろん、安東くんもね」
会ったことのない人への怒りを抑えて、目の前の安東くんに向き合う。
今、私がその人たちを恨んでも、憎んでも、嫌っても、意味がない。
それなら、傷つけられた人に寄り添った方がずっと良い。
天沢なら、きっとそうするはずだ。
「…でも、そしたら言われたんだ。“事情がなんだか知らないけど、そんな部活にも殆ど来れないような事情なら、部活に入る資格なんてないだろ。なんでお前、誘ったんだよ。
…なんでもできる幼馴染に対する嫌がらせか”って」
酷く揺らいでいる悲痛な声は、私の胸に突き刺さった。
やっぱり、許せない。
勝手に解釈して、嫉妬して、妬んで、羨望して。
それだけで飽き足らず、友達まで責めて。
安東くんが不憫で仕方がない。
物語の主人公のように一生懸命に突き進んできた彼は、何一つ悪いことなんてしていないのに。
