もしも願いが叶うのならば、私は君の光になりたい



「…それなのに、俺はさ、、ごめん」

不安が形になる、この瞬間を何度も味わってきた。

それなのに、やっぱり慣れない。

「…千晴と俺の間には、壁があるんだ。ずっとずっと…」

安東くんの声がどんどん掠れていく。

聴いているだけで泣きそうになる、か細い音を聴き逃さないように耳を澄ませた。

「中学の時の千晴は…今もだけど、弟…家族とか他人のことばっかりで。学校から毎日病院へ直行して、帰って遅くまで勉強するっていう、中学生にしては多忙すぎる日々を送ってた」


天沢が中学生の頃の話は、羽虹にも少しだけしてもらった。

でも、情報が増えるたびに現実味がなくなっていく。

弟の体調を心配して、プレッシャーに負けないように勉強もして、友達が傷つかないように気も配る。

そして、家に帰っても再婚した両親が待っている。



彼の休める場所はどこ?

僅か十三歳の少年が、そんな重荷だらけの毎日を乗り越えられるの?

三年間も、彼はそんな暗い海の中を一人で泳いできたの?


「…千晴はそんなに…体が強い方じゃないから。ある時、風邪拗らせて肺炎になって…入院したんだ」

嘘、と息を呑む。

入院するほど重い症状の肺炎は、人の命を奪うことさえある。

もう終わったことなのに、動悸が激しくて苦しい。

どれだけのものが彼を追い詰めているのだろう。


「風邪をひいても千晴は自ら欠席することなんてなかったし、周囲にも…とくに晴夏…弟には絶対にバレないようにしてた。でも入院となると、流石に隠せやしない」

安東くんの声は罪悪感に包まれたものから、天沢を思う悲しげな音色に変化する。

独り、苦しみの色に染まりながらも誰にも助けを求めない彼。

天沢は血の繋がった弟にさえ、本心を見せはしなかったのだろうか…。

「晴夏はいつも笑顔な兄の、呼吸さえままならないくらいに弱った姿に、かなりショックを受けた。

晴夏は千晴には似ていなくて、あまり感情を見せない方だったけれど、その時は一晩中泣いていた」

安東くんはその夜を思い出しているのか、酷く声を震わせている。

夜中に、病院まで行ったのだろうか。


家族のために、弟のために、ってそんなことばかりで。

自分のことなんてまるで頭にない。



他人を思う気持ちだけで生きてきたのに、結局身体が持たなくて、逆に大切な人を泣かせてしまう。



天沢は、哀しい人だ。

強くて、優しくて、綺麗で、美しいけれど。

弱くて、脆くて、切なくて、儚くて、哀しい。

酷く、哀しい人だ。