私の長い独り言のようなものを、安東くんは静かに聴いてくれた。
過去に後悔するように、静かに。
「水瀬さんは優しいんだな」
「え」
脈略のないセリフに、間抜けな声が喉の奥から飛び出す。
でも、安東くんの声音が酷く悲しいものだったので、何も尋ねられなかった。
「…あの人さえいなければ、とか…あの人のせいで、って…そういう、恨む気持ちはないのかなって」
安東くんの視線がわたしから離れて、窓の外の空へと向けられる。
暗い雨空に。
悲しい涙雨に。
空はどこへだって繋がっている。
天沢がいる場所にだって。
「恨む暇、なかったから。ショックで、何も考えられなくて、信じられなくて」
膝の上でぎゅっと手を握ると、スカートがぐしゃりと皺になる。
辛かったし、苦しかったし、何もかもぐちゃぐちゃで…痛くて仕方がなかった。
もちろん、恨む気持ちがなかったわけではない。
心の奥底に、その気持ちはあった。
でも、それに気付こうとしなかっただけだ。
私は弱かったから。
過去を捨てたくなかったから。
だから逃げる道を選んだ。
屋上へ、足を運んだ。
「でも…天沢に助けられて、少しずつ現状を理解して…心に余裕が生まれて。
今までの私だったら、絶対恨んでた。
…でもね、天沢が隣に居てくれたから。
誰かを恨むより、誰かを想う方がずっとずっと幸せなこと。それを、言葉じゃなくて共にした時間の中で、彼はゆっくりと教えてくれたから。彼の存在が、あったから。私は、恨まずにいられた」
君を想う時間は、私にとっての幸せそのもので。
君の隣は、春の麗かな木漏れ日よりもずっとずっと居心地が良くて。
君の声は、まるで空から舞い降りた羽みたいに柔らかく、美しかった。
七菜香を恨むよりも、君のために何かをしたい。
きっと、心の奥底に…その感情はずっとずっと居座っていたんだと思う。
ただ、見て見ぬふりをしていただけで。
彼が命を救ってくれた、あの瞬間から。
ずっと、ずっと。
