顔を顰めているがバレたのか、安東くんがそういえば、と話題を転換する。
「天沢…いや、千晴と、水瀬さんってさどんな関係なわけ?」
「え、うーん…」
改めて聞かれると、なんて答えれば良いのだろう。
友達、は何か違うし。
親友は近すぎるし、知り合いじゃ遠すぎる。
家族みたいな、というのもしっくりこない。
──水瀬さん。頑張ったね。もう何も我慢しなくて良いよ。
あの日、激しい雨の中微笑む君は、闇を切り裂く眩い光、そのものだった。
「…天沢にとって私が何かはわかんないけど、私にとって天沢は…命の恩人、かな」
「命の…恩人…」
安東くんは硬い音色でぽつりと呟く。
あまりにも重すぎる雰囲気に、何のフォローもできない。
雨の音が思考を邪魔して、ぴったりの言葉が浮かばなかった。
自殺、とか…言えるわけないし。
「千晴は、すごいな」
少しだけ、声色が明るいものとなる。
でも、どこか寂しげな表面上だけの明るさ。
「行動力だけは、勝ってると思ったんだけど」
少しだけ傾けた傘から、静かな瞳が覗いている。
ぽつりぽつりと頬に雨粒が乗っても、彼は空を眺めることをやめなかった。
「…空、好きなの?」
励ますことを知らないので、代わりに彼の気を逸らすことにする。
というのは建前で、気づいたら口にしていただけだ。
あの日の天沢の気持ちを知りたくて。
──ねえ、空は好き?
「まあね」
安東くんはすっと傘に整った顔を隠して、滴る水を手で拭う。
「ほら、大事な人の好きなものって自然と好意持つもんじゃん」
「…それは、そうだね」
「大事な人」が天沢かどうかは、わざわざ確認しなかった。
安東くんの瞳がこれ以上ないくらいに優しかったから、それだけで十分だった。
