「先に謝っとく。ごめん」

電車を降りて初めての会話が、まさか謝罪だとは思わなかった。

意図を問いたくて、ひとまず軽く首を傾げる。

「店に行きたいのは本当だけど、道はわかる。何回か行ったことあるし。待ち合わせってのも嘘」

なんだ、と軽く拍子抜けした。

さすが天沢のお友達ってとこだろう。

何かされるのかという心配は、全くの杞憂だった。

「口実ってことくらい勿論わかってるよ。それに、安東くんもう嘘ついちゃってるから“先に言っとく”は違くない?」

「あ、確かに」

端麗な顔を無防備に晒す安東くんは、どこか抜けていて天沢そっくりだった。

でも、身長とか声の低さとか、言葉遣いとかは全然違う。

やっぱり天沢は、一人しかいない。

私の特別は、彼だけだ。

「あれ?今、安東くんって言った?そういえば、俺…名前言ったっけ」

「ううん、言ってない。でも知ってる。安東颯希くん。天沢と羽虹の幼馴染」

初対面の人と、これだけ話せるようになったのはかなりの進歩だと思う。

天沢に言ったら、きっと純粋無垢な瞳をキラキラと輝かせて褒めてくれることだろう。

なんだか、何をしていても天沢のことばっかりで、甘いけれど寂しい。

心に穴が空いたみたいに。



きっと…いや、絶対。

この穴は、天沢以外には満たせない。

「そっか、真白さんから聞いたのか」

その時全身に違和感が纏わりついて、ものすごく全身がむず痒くなった。

なに、え?

自分の感情についていけなくて、それが更に気持ち悪い。

「真白さん、元気?本当は三人で話せたら、って思ったんだけど…。図書委員だもんな。別の日にするわけにもいかなくてさ」