「いいよ」

「え」

安東くんが友達に向けていた視線を、すぐさま私に切り替える。

くっきりとした二重に彩られた双眸が、眩しかった。

天沢はこの人と幼馴染なんだな、とはっきりとした実感を初めて感じた。


「どうせ帰り道だし、途中までなら」

「マジか、ありがと。じゃあ、二人とも部活頑張れよ」

「お、おお…」

早速歩き始めた私の背中をスタスタと追ってくる安東くん。

その姿を、彼の友達があっけらかんとした表情で見つめているのがわかった。



視線が痛い。

どうやら、色々な人から注目を浴びているようだ。

この人も目立つタイプの人間みたい。



「外で集まろ。駅までなら、多分わかる」

居心地の悪さに胃を痛めていると、安東くんは小声で囁いて人混みに消えてしまった。

どうやら気を遣ってくれたらしい。

私は安東くんに追いつくことがないように、廊下の隅に体を寄せる。


安東くんは、天沢の幼馴染。

安東くんは、天沢を気にしてるみたい。



でも…

安東くんは、天沢の友達。

なんだろうか。


同じクラスじゃないことを差し引いても、話している姿を一度も見たことがないのは不自然だ。

わからない。

情報が全然足りない。




今日に限って急遽、図書委員会に収集がかかってしまって羽虹が居ないのがかなり堪える。



羽虹が居れば…、ううん。


今、そんなことを考えてもしょうがない。

前へ進もう。

人一人見当たらない、ずっとずーっと先のところで歩けなくなってしまった彼の元へ行くために。


傘をバッと開く音で、心が決意に満ちていく。

今は、とにかく安東くんの元へ向かおう。

天沢が心から信頼した、唯一無二の存在の元へと。