「水瀬…雨音、さん?って君?」

神様に私の願いが届いたのか、夏の青空のように爽やかな少年が、私の前に現れた。

決して願いが叶ったわけじゃないが、なんだかデジャヴだ。

もしかしたら、妃里さんみたいに天沢の知り合いかもしれない。

「…そうだけど」

「やっぱりか。俺さ、この店に用あるんだ。案内してくれない?水瀬さん家近いって聞いてさ。俺、方向音痴なんだよね」

突拍子もない話に、はあ?と本音を漏らしてしまいそうになる。

だけど、その少年が持っている紙切れに書いてあるお店の地図を見て、驚きに目を見開いた。

「ここって…」

「おいおいナンパー?」

「やめろよさつきー、お前女には苦労してないだろ?」

二人の男子が、「さつき」と呼ばれた少年をニタニタとした意地悪い笑みで囲む。

こっそり少年の顔を盗み見ると、確かに整った顔立ちをしていて、女の子にモテそうだった。

「もー、やめろよ。知り合いと待ち合わせしてんの」

「ま、こう見えてこいつ彼女の一人もいないから。純粋無垢だから」

「それはそれでやめろ」

どうやら揶揄いに来ただけで、友情で結ばれている関係だったらしい。

まあ、当の本人は本題からずれていることをもどかしく思っているようだけど。

「ねえ、水瀬さん。どう?」




──千晴くんは私の幼馴染なの。

正確にはね、私と千晴くんと、あと一人。






その時、漸く思い出した。

さつきって確か…。



──雨音も知ってるんじゃないかな…、二年二組の安東颯希。



そうだ。

一年の時同じクラスにいた。


天沢の幼馴染の、安東くんだ。


「颯希、俺たちが送ってやろうか?」

「二人とも部活じゃん。それに五十分くらいかかるし」

「えーそんなとこで待ち合わせすんなよ」

安東くんが私にわざわざ話しかけたってことは…絶対天沢のことだ。

こんなチャンス、見逃せるわけない。