もしも願いが叶うのならば、私は君の光になりたい

「ありがとう、水瀬さん…」


天沢は、私が願った通りに表情を明るいものに変える。

彼はいつもの穏やかな微笑みではなく、心からの喜びをのせて夏の太陽のように煌めく明るい笑顔を浮かべた。


温和な落ち着いた彼にしては珍しい表情で、不安も苦悩も全部忘れて目を奪われてしまう。

「ねえ、天沢。私…教室とか、公の場とか、そんなのもうどうでもいいから。虐めとか、仲間外れとか、天沢と羽虹が居れば大丈夫だから」

天沢の瞳が揺らいだ。

きっと、羽虹のことを思ってる。

自分のせいで虐められて、独りになってしまった中学生の頃の羽虹を。

「天沢、私は…」

「あれ、千晴じゃんっ!」

天沢の背中から、同じクラスの男子(うろ覚え)がひょっこりと顔を出す。

油断していたのは確かだが、今の私は他人に動揺している余裕はなくて特に驚きはしなかった。

「あーごめん。お取り込み中だった?」

「ううん、ちょっと鍵落としちゃって。拾ってくれたんだ。ありがとう、水瀬さん」

いつの間にか、彼の手に家の鍵らしきものが握られていた。

ポーカーフェイスと言い、自然な動作といい、流石としか言えない。

私も必死に彼に合わせる。

「ううん、お礼を言われるようなことじゃないから。じゃあ、先に教室行ってるね」

去り際に天沢の顔をチラッと見ると、彼はもう分厚い仮面に顔を覆い隠して微笑んでいた。

私にしか、見せないってこと…で、いいの?

「水瀬ってクールだよなぁ…ほとんどの女子、千晴王子様ーとか言って見つめられただけでメロメロなのにさ。あ、それはそうと昨日休んだけど大丈夫なわけ?」

「うん、心配してくれてたの?ありがと」

「うわぁ、イケメンだな…」

微かに聞こえる会話を耳に入れないように、早歩きで校舎へ向かう。

何故だか、今の天沢の笑みも言葉も痛くて仕方がなかったから。



静けさに包まれた廊下は、さっきまでよりもずっと肌寒く感じた。