もしも願いが叶うのならば、私は君の光になりたい

いつも学校に着くのは相当早い方だけれど、今日はいつもに増して肌寒い時間帯に来てしまった。

天沢が心配で、居ても立っても居られない心境からのことだが、あの様子だと彼は今日も学校には来ないだろう。

まさに無駄足。蛇足。




そう思っていた矢先のことだった。

色素の薄い髪を風に靡かせている線の細い背中を見た時、一瞬夢だと錯覚した。

でも、夢でもなんでも良いから彼と話がしたくて一目散に駆け出す。

「天沢っ!」

校内だから誰か見ているかもしれない、とかそういう冷静な判断力は一切失って、彼の背中に縋る。

幸い、朝早いこともあって誰の姿も見えなかった。

「…水瀬さん?」

彼は緩慢とした動作で、虚な瞳を私に向けた。

今にも倒れてしまいそうな蒼白な顔色と、光を失った瞳。

それを見た瞬間、心臓が凍りついた音がした。


心ここに在らず、というのはまさしくこういうことを言うのだろう。

いつも光を放っている彼とはまるで別人。

なんだか自分でも驚くくらいにショックを受けてしまって、声が出ない。

「おはよう、水瀬さん。今日も早いね」

今にも風に連れ去られてしまいそうな彼は、ゆっくりと微笑んだ。

全てを仮面の下に隠した、偽物の笑顔。


いやだ。

そう、思った。


そんなの、いらない。

いらないんだよ。

ねえ。

聴きたいのは、平気を装った心のない挨拶なんかじゃない。

見たいのは、苦しみを押し殺した崩れそうな笑みなんかじゃない。


本音を、本当の顔を、聴きたいし、見たいんだよ。