「…行ってきます」
足を踏み出すのが億劫だ。
昨日のうちに、彼から返信が来ることはなかった。
なかなか眠れなくて、浅い眠りに入っては起きるを繰り返していた時に、着信音ではっきりと目が覚めた。
慌ててスマホを手に取ると、その眩しさに目が眩む。
なんとか目を慣らすと、天沢の名前でメッセージが届いていた。
『ごめん』
彼らしくない、たった一言のメッセージだった。
何かがあった。
あやふやな予感が、はっきりとした確信とへと姿を変える。
天沢は簡単に、自分の気持ちを露わにしない。
そんな彼が、画面越しでもわかるほどに動揺している。
かなり残酷な何かが、彼の身に降りかかったのだ。
今すぐ天沢の顔が見たいと思った。
きっと天沢の家を知っていれば、すぐに駆けつけていたことだろう。
だが彼の住居を知るわけもなく、何も出来ずにただただ学校への道のりを歩む。
電車に揺られている時間が、もどかしくて仕方なかった。
何もできない。
何があったの?と聞けば、きっと彼は時間はかかっても、答えてくれないことはないだろう。
だけど、それは無理強いをするのと同じだ。
頼み事を断るということ。
人の質問に答えないということ。
自分の傷を優先すること。
彼は全部全部、知らないのだから。
