「雨音、行動早っ…!」
私の家庭事情を相談するために天沢を呼び出し、更に彼のことをちょっと聞いた、と話した途端に羽虹は椅子からダンっと立ち上がった。
窓際の端の席とは言え、やはり視線は集まる。
羽虹の袖を引っ張って座らせると、彼女はその視線に漸く気付いたのかすみません、と周囲に小さく頭を下げた。
私たちは珍しく、ここに来るのは今週で二回目だった。
最近、天沢の話が多いから。
「うー、思わず立ってしまった。失態…。
まあ、で?何を聴いたとかは聞かないけど…その、家族のことは片付いた感じ?」
「うーん、まあ…。祖母には謝ったし、許してもらえたんだけれど…両親とのことはもうちょっと言葉を選びつつ話したいから、ひとまず保留にしてる」
あの日、名残惜しさを捨てて天沢から体を離した後、家まで送るよという彼をなんとか止めた。
天沢は心配そうな顔で、何かあったら電話してね、すぐ行くから、と言う。
『家族のことは焦らなくて良いと思うよ。ゆっくりで、いいから。
それと…ありがとう、水瀬さん。またね』
何に対してのありがとう、なのかはわからない。
でも、もしあの時の温もりのことを指しているのならば…
抱きしめたことが、本当に良かったのかはわからない。
だって、いくら天沢でも恋人でもなんでもない女に触れられたら嫌な筈だ。
でも、私は後悔していない。
あの温もりを、一生忘れないから。
