両手で汚くて醜い、大っ嫌いな顔を覆う。

涙で手が湿っていく感覚が気持ち悪い。


でも、天沢の顔を見るのが怖くて手を離すことはできなかった。


しばらくして、頭にふわりと柔らかい何かが降りてくる。

心を落ち着かせる感触に、私はそれが何かを確かめることなく、身を任せた。

「…伝えたいことがあって、今の話をしたんだ。聞いてくれる?」

天沢の、ピアノの伴奏みたいに丁寧で繊細な声が降り注ぐ。

私は、彼の眩しさに惹き寄せられるかのように顔を上げた。

「父さんを助けられなかったこと、ずっと悔やんでたんだ。
だから、代わりに誰かを救いたい、ってずっとずっと思って、生きてきた」

天沢の腕が私の頭に伸びている。


彼はなんて慈悲深い人なんだろう。

優しくて、優しくて、優しくてたまらない。


人のためになら、自分の苦しみなんて忘れられるくらいに。

泣いている人を見たら、どんなに傷だらけでも手を差し伸べてしまうくらいに。

何度突き放されても、罵声を浴びせられても、苦しんでいる人を見捨てられないくらいに。


「だから、あの日…水瀬さんを見つけた時、絶対助けなきゃ、って思った。これは僕に与えられた、最初で最後の試練だって。


神様なんて、僕は信じていない。

晴夏に重い病気を与えて、父さんを追い詰めて、今尚母さんを救おうとはしてくれない。

でも、それでも…その時だけは縋った。


どうか、彼女をこの世界から奪わないでくださいって…」