パタパタと階段を駆け上る足音。
彼の焦りが伝わってくるその音は、いつになく心地良かった。
「水瀬さん…っ」
珍しく息を乱して駆け寄ってくる天沢に、治っていた涙がぶわっと溢れ出す。
泣く資格なんて、ないのに。
天沢は肩で息をしながら、私の隣に腰を下ろした。
電話で助けを求めた私に天沢は、冷静さを失わずに言った。
『今、どこにいる?』
「…初めて、会ったとこ」
『うん、わかった。待ってて。出来るだけ早く行くから』
彼はその宣言通りに、十五分も経たないうちにやってきた。
「…馬鹿。優しすぎる、でしょ」
「水瀬さんに比べたら、優しくないよ」
彼があまりにも真剣な音色でそんなことを言うから、また何も言えなくなってしまう。
顔を俯かせると、何か柔らかいものが右手を包んだ。
視線を送ると、ワイシャツから伸びた繊細な手が見える。
なんて優しい人なんだろう。
いきなり呼び出したのに、すぐさま駆けつけて手まで握ってくれるなんて。
凍った心が、少しずつ溶けていく。
そして、涙となって溢れた。
