夜の星は、何故あんなに心を惹くのだろう。
キラキラと輝く星は希望と夢の象徴だ。
人々は叶うことのない願いを胸に、空へ手を伸ばす。
不確かなものにさえ、縋らずにはいられないから。
私は小さな光がばら撒かれた空を見上げながら、瞳から雨を降らせた。
気づけば、あの場所にいた。
彼と初めて言葉を交わした、廃ビルの屋上に。
家を出たときはまだ明るかった空も、電車に揺られて学校の近場であるここまで約五十分。
その間に、太陽は遠い地平線の向こうへと姿を隠してしまった。
何故、ここに来たのか。
そんなの、わからない。
理由なんてない。
ただ、気づいたらここに居ただけ。
どのくらいの時間が経っているのか。
そんなことを考える余裕もなくて、両膝を抱えた腕にただただ顔を伏せる。
涙でぐしゃぐしゃの顔を、たとえ誰も見ていなくても晒すわけにはいかない。
それに、今は星なんて見ていたくもない。
誰もを惹きつけ、人々に叶うはずのない願いを持たせる星なんて。
静かだった。
自分自身の嗚咽しか聞こえなかった。
どれくらい経っただろうか。
涙は枯れて、なんの音も聞こえなくなる。
それに反して、心は乱れていくばかりだ。
…天沢、助けて。
その時、電子音が沈黙を破った。
祖母かもしれないし、羽虹かもしれない。
可能性は十分あるし、寧ろ祖母の可能性が非常に高い。
それなのに、何故だろう。
画面を見なくても、確信していた。
「…はい」
『もしもし、水瀬さん?』
カラカラに乾いた花の根に、水が注がれる。
タイミング、良すぎるよ。
『僕だけど…』
「天沢、助けて──」
