もしも願いが叶うのならば、私は君の光になりたい



数週間が経った。


私は、名前をつけられない感情をもどかしく思いながらも、相談する相手も言葉も見つからなくて心を放置する日々を送っている。

でも、別に不快さは感じない。

寧ろ、温かくて、甘くて、柔らかい。





だから、不意打ちだった。



幸せな時こそ、人は痛みを感じやすい。





「ただいま」

「おかえり、雨音ちゃん」

天沢に出会って、私は変わった。

それを何より実感させるのは、祖母に対する態度の変化だ。

自分から挨拶できるようになったし、何かを尋ねられても自然に返せるようになった。

自分から話を振ることはないし、まだまだ他人行儀ではあるけれど、十分な進歩だと思う。

「雨音ちゃん、今日、恵梨(えり)から電話があったんよ」

浮かれていた心は、それまでの浮遊が嘘のようにどん底へ落ちていった。

“恵梨”というのは、祖母の娘で、私の母である人の名前だ。

天沢に会ってから本当に色々変わった私だけれど、両親と妹とは一度も話せていない。

天沢や羽虹と比較すると、あっちの方が明らかに他人に感じる。

話に出てくるだけで、こんなに憂鬱になるのだから。

「この前、テストの成績が良かったでしょう」

ふと、一週間ほど前のことを思い出す。

成績表を見せたら両親に送ってもいいか尋ねられて、渋々了承した。

予想外に明るい話に、荒れ狂った心が落ち着いてくる。

「それでね、恵梨が喜んでて…大学は恵梨の家の近くの…なんだったかねぇ、名前を忘れちゃってねぇ」

「…な、に言ってるの?」

一周回ってまた暗い道に戻ってきてしまったような錯覚。

心が、どんどん冷えていく。


あの家族に戻れと?

大学って、何?

私、決める権利もないの?