私の困惑した表情を見て、羽虹は慌てて言葉を付け足した。

「本当だから!千晴くんを恋愛対象で見たことないからね。千晴くん、そういうの狙いで近づく女の子苦手って知ってるし」

その時、ピンと閃いた。

天沢と羽虹は関係を誤解されて大変な目にあったから、そういうのはちゃんと否定して当然。

羽虹が誤魔化すわけないし、それが一番しっくりくる。

「羽虹、わかった。そうだよね、二人は大変な思いしたから、そういう噂はちゃんと否定しなきゃだもんね」

「…え、そうじゃなくて…、あ、うー、まあそれもあるけど!」

自信満々に言ってしまった答えはどうやら間違っていたらしく、今度は羽虹が困惑の色に染まる。

私はこれ以上余計な口を挟めないため、黙って羽虹の顔を見つめた。

羽虹は私の視線に言いづらそうに眉を下げて、唇を戦慄かせる。

「その、千晴くんの本音…引き出して、あげてね。雨音だからこそ、できることだと思うから」

「…私が?」

羽虹があまりにも真剣な瞳でいうものだから、疑問は口にしても否定はできなかった。

でも、心の底では捻くれ者の私にできるわけない、と思ってしまっている。

でも、羽虹は確信に満ちた穏やかな表情で静かに頷いた。

「私、勝手に千晴くんのこと話しちゃったから、そのこと千晴くんに謝ったの。そしたらね、『寧ろ僕には言葉にできる自信がないから、聞かれたことは水瀬さんになら全然教えていいよ』って彼は言ったの」

え、と思わず間抜けな声が机の上に落ちる。

天沢が怒らないことは知っているけれど、私になら教えてもいい、と言った意図はなんなんだろう。

私のこと、信頼してくれているのだろうか。

そう思った瞬間、空っぽのコップに水を注いだみたいに心が満たされて、甘い気持ちになった。

「でも、もう私の口からは言わないでおこうと思う。雨音相手なら千晴くんも少しずつ話せるようになると思うから。その方がいいよね?」

私は今度こそ間髪入れずに頷いた。

天沢が私を信頼してくれているのか、なんて確かめようがない。

でも、天沢の心を知りたいと思う、この想いだけは確実なものだ。

だから、私はもう迷わない。