「よかったー、さすが雨音!」

昨日の一部始終を話し終わると、それまで静かに頷いて聴いてくれていた羽虹は、満面の笑みを浮かべた。


ここは近くのカフェで、私たちが知り合いに聴かれたくない話をする時に利用する場所だ。

天沢のことを公の場で言うわけにはいかないので、久しぶりにここに行こうと提案してくれた羽虹と入店したのはもう三十分ほど前のこと。

話を纏めるのが苦手な自分に嫌悪感を感じる。

「いや、羽虹が色々教えてくれたから。ありがとう。

…でも、私昨日帰ってから思ったんだけれど、そんなに謝れなかったんだよね。天沢を励まそうと必死で…、傷つけたの私なのに」

自分の情けなさに嫌気がさして、声に力が入らない。


昨日のあの時間内に私より天沢の方が謝罪の言葉を多く述べている事実に気づいたのが、昨日の夜…

帰りが遅くなってごめん、と祖母に謝った時だ。

前だったら絶対に何も言わずに部屋に直行だったので、天沢のお陰で少しは成長したかなと思ったのも束の間。

肝心の相手に言葉を受け止めてもらえなかった事実と、それに気づかずのこのこ帰ってきてしまった自分に、電流が走るような衝撃を受けた。

天沢は優しいし気にしていないだろうけれど、私の中ではそれこそ本末転倒だ。

彼は私に『許してもらえた』とでも思っているのではないだろうか。

「…そうかな?千晴くんには伝わったと思うよ?千晴くんが見てるのは、言葉だけじゃないし。表情、一つ一つの動作、心。
それに千晴くんにとって謝られるより、雨音がかけた励ましの言葉の方が嬉しいと思う」

溢れそうになっていたため息が、途中でパチンと消える。

ついでに心を覆っていた薄暗い膜がどんどん薄くなっていく。



──嬉しい、幸せだな、、



窓辺からさす淡い光が店内を包み込む。

頬を撫でる柔和な風。

花瓶に挿してある桃色の薔薇が微かに揺れた。