「だって、初めて会った時は絶対隣に並んでくれなかった水瀬さんが、今はこんなに近くにいる」
「え…」
私は彼の言葉が信じられなくて、目を見開いて絶句した。
彼の言葉は、いつだって私の心の穴を満たしてくれる。
彼はいつになく深く俯いて、繊維の細い前髪に透き通った瞳を隠す。
「嬉しい、幸せだな、、」
彼は自分の心に語りかけるように、しみじみとそう言った。
傷だらけの心をベールで覆い隠して、見て見ぬふりするみたいに。
「天沢の隣にいるときが一番幸せ。
天沢に一緒にいて幸せって思ってもらえる私が、一番幸せだよ」
天沢の瞳に私を映して欲しくて、前を向いて欲しくて、私は彼の瞳を真っ直ぐに見つめる。
知らなかった。
初めて会った時…高校の入学式で彼を見た時、私はなんて眩しい人だろう、と思った。
綺麗で、美しくて、悩みなんて何一つない。
そんな完璧な人間だって、思っていた。
でも違う。
この美しさは、輝きは、何の犠牲も出さずに得られるものじゃない。
きっと彼は、私が思っている以上に生きることに必死なんだ。
「ありがとう、水瀬さん。今日は励ましてもらってばかりだね」
天沢がその端麗な顔を上げて、花が咲き誇る花壇みたいに華やかな笑みを浮かべる。
こんな言葉で、彼の痛みを少しでも和らげることができるのならば、それ以上幸運なことはない。