「水瀬さん、どうして謝るの…?」
頭の中の苦悩も葛藤も、その一言が全てを掻っ攫っていった。
天沢の困惑した表情に、不安そうな寂しそうな声に、微かに傾げられた首に動揺が隠せない。
「え、だって…私、天沢に言っちゃいけないことたくさん言った。天沢のこと、何も知らなかったのに。
それに羽虹のことも利用してるとか言った。私のためなのに。天沢は私を、助けてくれただけなのに…、」
「それは違うよ」
さっきまで言葉にならなかった過去の記憶が、口から溢れ出す。
でも、彼はそれを否定して遮った。
私の言葉を遮ったことなんてない、聞き上手な彼が。
「僕は羽虹とのことを聞かれたとき、否定しなかった」
天沢は心底過去を悔やむように、苦しげに眉を寄せて俯いた。
今にもふっと消えてしまいそうな脆さに、なんとか顔を上げてもらいたくて言葉を綴る。
「それは私が、天沢を一方的に責めて…しかも、天沢そういうの苦手でしょ、怒鳴られるのとか…」
あの時の天沢の様子は怯えているようにしか見えなかった。
あれは嘘がバレることを恐れているのかと思ったこともあったが、そうではないのだろう。
大きな音に慣れていないのか、暴言が痛いのか。
彼は温和で誰にでも優しく、声を荒げることなんてないのだから。
「…ううん、僕は言いたくても言えなかったわけじゃない。言いたくないから、言わなかった」
「え…?」
天沢は、彼自身の気持ちを噛み締めるように言った。
私が意味がわからなくて、彼の言葉をひたすら頭で繰り返す。
言いたかったんじゃなくて、言いたくなかった?
言えなかったんじゃなくて、言わなかった?
