「ごめんね、羽虹。天沢のこと、いつかは言わなきゃって思っていたのに、タイミングとかわからなくて」

「…ううん、全然いいよ。お互い様だもん。

…でも、、雨音ともっと早く出会えたらなぁ…死にたい、なんて思わせなかったのに」

羽虹は両膝を腕で抱えて、頭を伏せる。

彼女の声は潤み、頼りなく震えていた。

なんとか私の思いを伝えたくて、必死に言葉を綴る。

「羽虹、あのね…私、あの時あそこに立って良かったって思ってるの。天沢にも羽虹にも会えたから。…それよりさ、そんな風に助けてくれた天沢に、私、」

「大丈夫だよ、雨音」

今度は私が泣きそうになって俯いていると、羽虹が顔を上げてさっきとは別人みたいに力強い瞳で私を見つめた。

確信に満ちた表情に、私は不安も後悔も一瞬で忘れてしまう。

「雨音はダメな人間なんかじゃない。私の憧れで、親友で、大好きな人だよ。千晴くんだってそれがわかっていたから、雨音と一緒にいたの。

雨音の今の気持ち、ちゃんと伝えればわかってくれるよ。千晴くんは、そういう人でしょ?」

羽虹が優しく微笑みながら、私の手を握る。

日光が逆光となって、眩しい。

天沢の姿と重なる。


──会いたい、天沢に。


「雨音のしたいようにすればいいよ」

彼女の温和な声が私の背中を押す。

もう、迷いはなかった。


「…私、天沢に会いにいく」



彼の甘くて柔らかい声が聞きたい。

彼の優しさに触れたい。


それなら、ちゃんと言わなきゃ。


醜い私を晒してでも。




「がんばれ、雨音」

「うん、ありがとう…!羽虹」


私は即座に立ち上がって、手を振って見送ってくれる羽虹に手を振りかえしながら走り出す。



空は淡い水色に染まっている。

眩しい太陽が背中に照りつけて、踏み出す一歩が軽い。


もうすぐ夕暮れの時間だ。



お願い、待って──



太陽が沈んでしまう前に、どうか彼に会わせて──