『惨めだね、羽虹。千晴くんにはあんたみたいな馬鹿は似合わないよ』
わかってるよ、わかってたよ、そんなこと。
あなたたちに言われなくても、私が一番わかってる。
体育館の倉庫は静けさに包まれていて、彼女の声はよく響いた。
『ええ?納得いってない感じ?調子乗んなよ、うざっ!鏡見てきたら?』
女子が私を囲んで襟元を掴まれる。
こんなの、クラスの男子が大喧嘩したときにしか見たことない。
怒ってる。
何が彼女の逆鱗に触れたかなんて、もうわからないし、どうでもよかった。
ただただ私は口を継ぐんで嵐が去るのを待つ。
それだけだった。
でも、そう簡単に彼女の怒りは収まらなくてむしろどんどんエスカレートしていく。
『なんか言えよ、口あんの?それともビビって喋れない?』
『お前みたいなの、いたら迷惑なんだよ。千晴くんに纏わりつくくらいなら死ねば?』
話したこともない女子が、私を非難の目で睨んでくる。
人に命を捨てろなんて言われる日がくるなんて、かなりのショックだった。
私はここまで人に嫌われてしまったのか。
ただただ、一緒に居たい人と一緒に居ただけなのに…。
溢れ出しそうな涙を必死に堪えて、私は真顔で彼女らを見上げる。
ここで泣くわけにはいかない。
千晴くんと一緒にいた時間を、やっぱり否定なんかしたくないよ。
『なんだよ、その顔っ!殺してやろうか?』
『ねえ、何してるの』
脳裏に浮かんだのは、暗闇を切り裂く鮮烈な光。
顔を見なくても、わかる。
十三年間、隣で聞いてきた声。
冷え切った室内が温まっていく。
『ち、千晴くん?えっと、これはっ、その』
『…千晴くんも迷惑だって思ってたんでしょ?だって、この子ダメじゃん』
私の服を離し、狼狽えて誤魔化そうとした一人の女子を遮って、にこりと微笑む彼女ら。
私は今度こそ本当に泣きそうだった。
千晴くんにだけは、こんな惨めな姿を見せたくなかった。
