「…って!私の馬鹿!」
気づいたら天沢のことを考えている自分に寒気がする。
別れた彼氏に未練たらたらの女子か、私は。
頬を抓って現実に戻るものの、先生に近づいていく羽虹の姿を見つけて思わず目で追ってしまう。
男子たちは試合に夢中で、羽虹の存在に気づいていない。
その時、シュートを決めようとした男子の足からボールが思いっきり飛んだ。
誰かがカットしたらしい。
「危ないっ…!」
すごい勢いで羽虹に迫っていくボールに、私は心臓が凍りそうになる。
これが顔に当たるようなことがあれば、無事じゃ済まないだろう。
弱虫の私は見てられなくて、反射で目を閉じた。
しばらくして、ビクビクしながら瞼を開ける。
そこには、身を挺してお姫様守る王子様がいた。
「っ…」
羽虹もそろりそろりと目を開けるが、その瞬間目を大きく見開いて彼の手を包み込んだ。
ごめんね、私の不注意で!赤くなってる!
ううん、大丈夫。怪我はない?
聞こえるはずのない会話が、脳内再生される。
羽虹が無事だったことに心底ホッとするものの、なんだかモヤモヤが解消されない。
その時、羽虹の口が一つの名前を呼んだ。
千晴くん、と。
どうしようもないほどの違和感が、全身を包み込む。
羽虹が、男子を名前呼びしていたことなんて今までなかった。
そういえば…天沢も、、
── そ、れは、“羽虹”はっ…
天沢は女子のことを、苗字にさん付けでしか呼ばない。
名前を呼び捨てなんてもってのほかだろう。
二人は…、遠い存在じゃないのだろうか。
もしかして、もう…結ばれているの?
遠くではボールを蹴ったと思われる男子が、羽虹と天沢に頭を下げている。
なんだか全てドラマを見ているような非現実感に満ちていて、羽虹が運動場を去るまで私はそこから動くことができなかった。
