月曜日。

静かな朝だった。



何もない、一日の始まり。




「…いってきます」

「いってらっしゃい、雨音ちゃん」

祖母が笑顔で、手を振りながら見送ってくれる。

私は腫れた目を隠すかのように、いそいそと家を出た。





こんな風に挨拶するようになったのはいつからか。

そんなの、分かりきっている。


天沢と、出会ってからだ。

彼はいつも、挨拶を欠かさなかったから。




──水瀬さん



甘い声を、優しい笑みを、繊細な仕草を。

思い出すたびに、私は混乱する。


本当に天沢が、羽虹を利用したの…?


でも、嘘なら否定したはず。

あんな風に動揺したってことは…。


本当、なのか。



あれが、本当の天沢。




熱くなってしまった目頭を抑えて、必死に涙を堪える。

一昨日帰ってから、ずっとこのループだ。

きっと、これからも…。



天沢と羽虹の顔を見るのが怖い。

どうして、同じクラスになってしまったんだろう。

お願い、もう…許してよ。

何も望まないから。

独りに戻るから。

お願いだからこれ以上、私を裏切らないで。