ゆらゆらと揺れ動く感情に嫌気がさして、思わずため息をこぼす。
天沢は自分のせいだと勘違いしたのか、申し訳なさそうに俯いた。
「あ、のさ」
それでも必死に私を宥めようと、言葉を綴る。
胸がぎゅっと掴まれたように痛かった。
「水瀬さんってすごく良い名前だよね」
「は…?」
「雨の音で、雨音って落ち着いてる感じがするし、響きが綺麗。僕は雨が好きだよ」
天沢が顔を上げてふんわりと微笑む。
まるで、太陽みたいに。
「…何、言ってるの?」
何でも切り裂けそうなほどに鋭い声が、喉の奥から這い上がってくる。
天沢は私の鋭利な言葉に心を刺されたかのように、怯えた顔で身を引いた。
『雨音って名前暗すぎない?じめじめして、ほんっとお似合いだよ』
『皆をびしょ濡れにして気分を盛り下げるみたいな?うわぁ、ある意味すっごい才能だねぇ』
どれだけっ!
どれだけ私がこの名前が嫌いか!
あんたにはわかんないでしょ!?
「こんな名前のどこが良いの!?雨だよ?
制服も靴も濡れるし、どこにも行きたくなくなるし!
それに洪水とかは人の命を奪うんだよ!
何も知らないくせに、軽々しくそんなこと言わないでよっ!」
喉が焼けるくらいに熱い。
呼吸をする間もなく叫んだ代償か、呼吸が苦しかった。
でも何より痛いのは、喉でも肺でもない。
急に凶変した私をまるで恐ろしいものでも見るかのように見つめる、泣きそうな瞳。
恐怖と後悔と謝意に歪められた、その端麗な顔を見ることだ。
そんな顔、しないでよ…。
全てに恵まれた天沢が。
そんな顔するなんて、ずるい。
狡いよ。
「良いよね、天沢は」
