「あの、水瀬さん…?」
子犬がしゅんと耳を下ろすかのようなか弱い声に、私ははっと顔をあげる。
天沢は何かを探るような様子は一切見せず、ただ真っ直ぐに私を見ていた。
「何でもない」
「…そっか」
天沢は本当に?と言いたい気持ちを抑えつけるかのように、手をぎゅっと握りしめる。
これは天沢が感情を抑えたり、勇気を出すときの癖だと思う。
今だって、そう。
罪悪感がザクザクと心を刺す。
でも、それでも、言えなかった。
──私と羽虹を導いたのは天沢なの?
そんなこと、聞けるわけない。
だけど、もう良いや。
天沢は絶対に羽虹を利用したりなんかしない。
そう信じると昨日の夜、決めたんだ。
きっと逆の立場でも、天沢は私にわざわざ根掘り葉掘り尋ねてこないだろう。
でも…
やっぱり、不安だ。
──そうだよ。でも結果的に水瀬さんは羽虹と仲良くなれたんだし、良いことだよね?それに水瀬さんが一人じゃ“可哀想”でしょ?
絶対なんて、ないから。
「久しぶりだね、こんな風に話すの」
「…そう?たった三週間じゃん」
天沢が空気を変えようと気を遣ってくれている。
それはわかっているのに、口から出るのは捻くれた意地悪な答えだ。
ご機嫌取りしてるの?
バレないように?
信じさせる、ために…?
こんなこと、考えたくない。
天沢は優しい。
今だって、呆れも困惑も怒りだって見せやしない。
そんな天沢を、やっぱり心の底からは信じられない私は…
本当に最低だ。
